稟議書に申請書、めんどうくさい!組織に複数承認が必要な理由とは

赤提灯マネジメント

今担当している案件は、仕様変更が重なり設計に大幅な修正が入った。この修正によって、当初の想定よりもスペックと価格の高い部品が必要になってしまった。

 これが面倒くさくて大変だ。

 図面や仕様書の変更はもちろん、新部品購入には各部門で複数段階の承認が必要だからだ。

 クライアントとは価格の面で合意はとれているのだから、新部品購入の際の複数段階の承認は簡略化できるんじゃないだろうか?

 まさか、僕が従来のまま安い部品で納入して、差額をピンハネするわけがないし。

 もっと社員を信用して「性善説」で仕事を任せてはくれないだろうか?そもそもだけれども、社員を信用しない「性悪説」って、マネジメントに必要ないんじゃないかな?

 そんなことを考えながら歩いていたら、赤提灯につられて

今夜もつい、いつもの居酒屋に立ち寄ってしまった。


【登場人物】

佐藤(30才):電子機器メーカー開発 新米係長 

鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長  


 「それで、佐藤君はマネジメントに性悪説はいらないって思ったのか。」

 「はい。性悪説に基づいた人を信頼しないマネジメントって、無駄にチェックポイントを多いから工数増えるじゃないですか?それって、上司にとっても部下にとっても負担になるしコストがかかる分、価格や納期に跳ね返って、クライアントも迷惑なんじゃないかなって思うんですよ。」

 「うーむ。」

 「あれ?鈴木さんは違う意見ですか?」

 「俺は、性悪説は必要だと思うよ。」

 「鈴木さんは、ひねくれてるからなあ。こちらから相手を信用しないと、相手もこっちを信用してくれませんよ。」

 「俺は、そういう自己啓発的なことを言いたいわけじゃない。人との関係を作りたいなら勿論、信頼は必要だよ。そこは性善説で俺も賛成。しかし、マネジメントする上では性悪説も必要だと思う。」

 「例えば、どんな場面ですか?」

 「君がさっき言っていたけど、管理や仕組み作りの場面では性悪説に基づいたマネジメントが必要だ。君は横領する人間だとは、俺も思わないけど。社会は君のようなお人よしだけで構成されているわけじゃないからね。」

 「また、僕をバカにしていますね。」

 「いや、そういう意味じゃないよ。気を悪くしないでくれ。会社の経営や制度に関わる部分は、性悪説で仕組み作らなければいけないという事を言いたかったんだ。性悪説といっても、人の本性は悪だとか、そういう事を言いたいわけじゃない。人は『必ず間違えるし、失敗するし、サボる』って事を言いたいんだ。なぜなら、俺がそうだからね。」

 「確かに、間違いや失敗のない完璧人間はいませんよね。しかし、鈴木さんはいつもサボって仕事してそうですよね。」

 「失礼だな。俺は、成果は出す。空いた時間の自分の時間を有効に使っているだけだ。」

 「はいはい。わかりましたよ。でも、性悪説ばっかりだと『人を信用してないのか?』って思われないですか?」

 「マネジメントの判断を正しくするためには人は信用しなくて良いんだよ。それに、別に人に好かれるために仕事してるわけじゃないしな。」

 「人に嫌われたっていいんですか?」

 「まっとうな仕事をするためには、人に嫌われることも言わなきゃならない時もある。マネジメントする側は、今後起こりえる最悪の事態も想定してリスクヘッジしなくちゃならないからね。」

 「横領されたり、裏切ったりする人間が組織にいると想定するわけですか?」

 「まあ、それは言い過ぎだけど。大切なのは予想できるリスクは早めに潰しておくことだよ。性善説を前提としたシステムや機構は不正行為に対しては無力だ。悪用されてしまう可能性があるのなら、不正や間違いの起こりにくい形に構築しなければならない。」

 「まあ、確かに会社員の横領や不正ってのは最近も多いし、なくならないもんなのかもしれませんね。」

 「それに、性悪説に立って考えることは結果として、人や組織にとて良いことなんじゃないかと思ってね。」

 「え?どういう事ですか?」

 「『人は必ず間違えるし、失敗する』という性悪説の立場に立って考えると、誰もが陥りやすいリスクを取り除くことができるってことだよ。」

 「なるほど。」

 「人をやみくもに信用して、勝手に期待して対策を怠り、問題が起これば当人に責任を押し付けるような仕組みよりは、よっぽど人に優しくないか?一方的に性善説の観点から『人を信用していないなんて酷い奴だ』なんてレッテル張りしてくる奴よりも人格者じゃないか?」

 「すみません。僕はそんなつもりは…。」

 「いや、いいんだよ。佐藤君。誰でも間違いはある。それに、俺は酒を奢ってもらったら、人の間違いや失敗はすぐに忘れてしまう特殊な才能を持っているんだ。」

 またしても、奢らされてしまった。

余計な出費が増えてしまったが、今日もおじさんと話せて良かった。

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―今日も居酒屋の赤提灯は煌煌と夜に浮かんでいた。

 ~続く~

 本記事は、赤提灯居酒屋で、企業戦士たちの談話を肴に、お酒を嗜むことを趣味とする筆者が、居酒屋で耳にした実話と、仕事上の体験談を、プライバシー保護を目的に編集、再構成したフィクションです。