細かい指示出しも時には必要!ビジネスにも重要な守破離の《守》

赤提灯マネジメント

「佐藤君の下では人が育たないね…。」

同じの部署の先輩が、こんな事を言っていたらしい。

ショックだったし、言い返したかったが、実際に僕のチームでは新人が育っていない。部下も僕に不満があるのか、最近はチームの雰囲気が良くない気がする。

部下の自主性に任せるマネジメントをしてきたつもりなのに
どうしてこうなってしまったんだろう。

そんなことを考えながら歩いていたら、赤提灯につられて
今夜もつい、いつもの居酒屋に立ち寄ってしまった。


【登場人物】
佐藤(30才):電子機器メーカー開発 新米係長 
鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長  


「それは、佐藤君が間違ってんじゃないか?」

「そう思いますか?」

「それで、君はどんなマネジメントをしようとしていたの?」

「自主性を持たせるマネジメントっていうんでしょうか?一方通行にならない双方向なコミュニケーションで、部下の可能性を信じて、細かく指示をするんじゃなくチームを支えていくようなチームリーダーになりたかったんです。」

「どこかのマネジメント本の目次をそのまま読んでるみたいだね。君が色々と勉強していたのは分かるよ。」

「茶化すのは止めて下さいよ。僕は結構本気で、そう思っているんです。なんでかって言うと、僕が入社した時の初めての上司がガチガチに管理してくる人だったんです。業務の隅々までの指示が細かくて、それが嫌だったんです。同じ思いを部下にはして欲しくないんですよ。」

「ちょっとまって、俺は上司の細かい指示が、一概に悪いとは言えないと思うな。」

「そうでしょうか…」

「細かい指示は、仕事がある程度できる中堅のメンバーやベテランには余計な事かもしれない。」

「はい。」

「しかし、仕事がまだ分かっていない、新人や社歴の浅い人に対しては、業務のあらゆる手順を監督して意志決定の一切を任せない時期が必要だと、俺は思う。」

「僕は嫌だなあ。最初から型にはめてしまうようなマネジメントをすると画一的な人材になってしまいませんか?」

「まあ、待てよ。いきなり新人にカラーを出せって言われても無理な話だ。自分なりの仕事のやり方を覚えていくのは仕事の基礎を把握してからだろ。最初に型を覚えないと、型からはみ出せない。守破離ってやつだよ。」

「武道の言葉でしたっけ?」

「元々は茶道で有名な千利休の言葉らしいね。武道や華道、芸術、スポーツ、ビジネスでも通じる、プロフェッショナルになるための重要な要素だよ。その守破離で最も重要なのが《守》、基礎からきちんと忠実に吸収・実践して自分のものにすることだ。」

「確かに、基礎は大事だとは思います。」

「仕事の型がキチンとできていない新人に自由に仕事をさせたら、根本的な間違いをしたまま仕事を進めてしまって、大変な事になってしまわない?」

「その都度、対応してフィードバックをするようにしていますよ。」

「その結果、手戻りが多くなるだろ?それは、君にとって非効率じゃないかい。」

「効率性というよりも、自分で考えるクセをつけてもらうことを優先したいんです。」

「どう言ってるんだよ?」

「それは、いきなり答えを出さずに、まずは『自分で考えてみて』って言ってます。」

「君が部下を自分で考えるように仕向けるために『もう一度自分で考えてみて』と言ったとしてもさ。君の部下はどう思うだろう?それだけじゃ、どの部分が悪かったか分からないよ。」

「うーん。」

「部下の考える力を養うってことは、具体的な指示を出さずに放ったらかしにする事じゃないだろ?」

「部下を放ったらかしたいわけじゃないですけども…」

「そうだろ?具体的な指示を与える為には、新人の部下には仕事の型を覚えてもらう必要があるんだ。」

「じゃあ、その仕事の型ができていない人には何から始めれば良いんですか?」

「具体的には、全ての業務タスクをリスト化して各タスクが合格点に至っているか、時間がどれくらいかかったチェックすること。そのチェックをすると、やり方や手順が間違っている部分が浮き彫りになってくる。そこから改善案を考えるんだよ。」

「なるほど。しかし、その細かい管理をすることで、部下のやる気を削いでしまいませんか?」

「部下がやる気をなくすのは、上司が細かく管理してくるからじゃないと思うよ。部下の仕事に対して具体的な指示や改善案のないまま『自分で考えろ』と言われて、何をしていいか分からなくなった時に、やる気がなくなるんだ。」

「確かに、僕が新人の時もそうだったかもしれません。」

「君が新人の時の上司は、細かく指示して日々の業務の流れや全体像を身に着けさせた。君がある程度、仕事を覚えたら細かいことを言ってこなくなったんじゃないか?」

「そういえば、そうだったかもしれません。」

自分の考えや改善案が自分で導きだせるようになるには、仕事のタスク、フローといった型をしっかりと認識しないといけない。そのためには、新人や社歴の浅い人には、細かい指示を徹底する時期が必要なんだ。」

「僕は部下の自主性に任せようとしていたんですけど、その段階に至るまでに、丁寧に彼らの仕事を見ていかなくちゃならなかったんですね。」

「そういう事だよ、まずは仕事の型を覚えてもらって、それを応用して発展させて、その先に自分のカラーを出してもらうんだ。」

「今思えば、僕の新人の時の上司のやり方って、方法として間違っていなかったんかもしれませんね。」

「そうだよ。なにより君がその方法で成長したから、今、部下を任せられているんだろ?」

「当時は仕事を覚えようと精一杯でしたし、上司が自分をどう育てようとしていたかなんて考えもしていませんでした。よし!今日は早めに帰って、明日に備えます!」

「よし、いいぞ。部下のマネジメントに迷ったら自分の新人時代を思い出してみることだ。基本は大事だからね。そして、君は基本に忠実に、教えて貰ったら対価を払う事を忘れていけないぞ。」

またしても、奢らせられてしまった。
余計な出費が増えてしまったが、今日もおじさんと話せて良かった。

―今日も居酒屋の赤提灯は煌煌と夜に浮かんでいた。

~続く~

本記事は、赤提灯居酒屋で、企業戦士たちの談話を肴に、お酒を嗜むことを趣味とする筆者が、居酒屋で耳にした実話と、仕事上の体験談を、プライバシー保護を目的に編集、再構成したフィクションです。