「上は現場の気持ちなんて分かってくれない?」相互不理解の解消法

赤提灯マネジメント
今日は、仕事を早めに切り上げて、同じ部署の後輩と飲みに出かけた。
昼休みに「話があるんですが、お時間ありますか?」と言われたからだ。
一体、何の話なんだろうかと内心ヒヤヒヤしていたけれども
フタを開けてみれば、最近の会社の方針に対しての不安や不満についての相談だった。
実は、最近、後輩や部下、部署が違う同僚からこの手の相談を良く受けている。
直接上司には言えないが、溜まった鬱憤を誰かに話したい。
そこで、社内でも比較的話しやすい僕に話してスッキリしてしまおう
という空気が出来上がっているらしい。
僕を信頼して相談してくれるのは嬉しいのだが
彼らの不満や不安にどう対処すれば良いか良くわからない。
そんなことを考えながら歩いていたら、赤提灯につられて
今夜もつい、いつもの居酒屋に立ち寄ってしまった。
【登場人物】
佐藤(30才):電子機器メーカー開発 新米係長
鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長
「ふーん、現場の人間が上層部に不信感を抱えてるって?」
「不信感とまではいかないと思うんですけど、上層部の経営方針がうまく伝わっていないのか、上からのお達しに納得がいかないって意見が多いですね。不信感と言えば不信感なのかなあ。」
「良くある話だよ。労働者の3人に1人は経営層の事なんて信頼してないんじゃない?君だって会社の上の連中に全幅の信頼を寄せているわけじゃないだろ?」
「学生時代の友達から社畜と呼ばれている僕ですが、こんな僕でも上に言いたいことはありますよ。」
「どんな組織でも経営ボードと従業員の間には信頼関係のギャップが必ずあるはずなんだよ。そして、信頼関係が揺らいでる組織が成功したって話は聞いたことがない。」
「ウチの会社は、ちょっと今マズイ状況かもしれませんね。経営層は働き方改革だと言ってはいるんですが、どうも現場の人間を信じていないような、所謂マイクロマネジメントに陥っているような感じがするんです。」
「経営側が従業員を信頼できていないと、部下を締め付けるようなマネジメントをしてしまうんだろうなあ。」
「それでいて、新しい発想とか、革新的なアイデアを出せなんて要求されても、出てこないですよ。」
「信頼が基盤にあるからこそ、自由な発想も生まれて来るはず。」
「僕に相談してくる後輩達も、表面的には上からの方針を受け入れたようには、振る舞うとは思いますが。上との信頼関係が成立していないから、自分から能動的に組織のために動こうとは思わないんじゃないでしょうか。しかし、なんでこんな事になっちゃったんだろう?」
「現場と経営層の信頼関係がうまく築けていないのは、経営陣の姿が見えてないからだろう。」
「組織の透明性とかいいますけど、そういうヤツですか?」
「経営層から現場におりてくる情報量が少ないんじゃないかな?経営陣は半期に一度とかに経営方針を話して伝えた気にはなっているけど、現場には浸透していないのさ。」
「そうなのかな?情報量は十分だと思いますけど。僕はある程度、経営陣の言っている内容は分かりますけど。」
「それは、君が前から社内環境の改善の取り組みとかしているし、組織が上手くいくような考えを持っている、組織の中でも積極的な階層にいるからじゃないか?」
「僕には部下もいますしね。他の社員と比べたら、幾らかは経営ボードに近いと言ったら近いのかもしれませんね。」
「パレートの法則って知ってる?」
「ええと、どんな組織でも2:6:2の割合で、すごく仕事のできる優秀な人と、普通の人、デキない人のグループに別れるって話でしたっけ?」
「そうそれ。売上の8割は全顧客の2割が生み出しているとも言われている法則ね。賛否両論あるらしいけど、この法則は組織内の信頼関係にも言えるんじゃないかと思うんだ。」
「ああ、なるほど。組織全体の2割が経営方針に共感賛同して、6割は普通に受け止めて、2割が反対するって感じですか?」
「まあ、そんな感じかな。細かく言うと、その6割にも細かい階層があるんだろうけど。下位2割のレイヤーを排除しても、6割の中から新たな下位レイヤーが生まれる。下位を排除するだけではダメなんだよね。」
「その6割の人たちに、経営陣の思いとか伝えていかなくちゃならないですね。」
「上に立つ立場の人間は、中長期的なプランや、経営の事を常日頃考えているけど、現場はそうじゃないよね?上に立つ人達はビジョンを、数字を並べて図解して説明すれば伝わるもんだと勘違いしている事が多い気がするんだよね。」
「勘違いですか。」
「現場にいる人間からしたら、今月の売り上げとか、差し迫った納期の事といった短期目標の仕事が業務のメインだから、中長期的な目標や経営陣の思いとか、ピンとこないと思うんだよね。」
「どうやったら伝わるんでしょうね?」
「経営陣から、繰り返して何回も、しつこく伝えていくしかないんじゃないかな?そもそも、経営陣と現場の距離が遠いって場合、心理的な意味合いだけでなく、物理的に遠い場合がある。」
「経営ボードに近づくと、外出が多くなったりして、会社にいる時間が減りますよね。」
「それもあるけど、会社の規模が大きかったり、オフィスが複数に別れている場合は、会う回数も少なくなるだろ。滅多に会わない上司から、年に2,3回会うタイミングで、ビジョンやらなんやらを言われても頭に入ってくるかい?」
「うちもオフィスが離れています。滅多に本社に来ることもない地方配属の人だったら、年に数回会う偉い人にいきなり中長期的な展望とか語られても、スッと受け入れられないですよね。うーん、何か具体的な施策ってあるんでしょううか?」
「企業ブランドの構築や組織の一体感のために、社内報を見直して取り入れるのは一手かもね。」
「社内報ですか。じつはウチも考えてたんですよ。人が増えてきたので社内イントラでしてみようかなと。」
「トップからのコミュニケーションを図る場合は、社内報は有効なツールだと思う。社歴の浅い人には社風や文化を伝える手段にもなるし、よりよい取り組みや姿勢を紹介もできるしね。」
「それでしたら、社員の興味にあったコンテンツを提供していかなきゃなりませんよね。」
「経営方針や業績の報告みたいな話題を、分かりやすく説明する解説記事とか書いたりね。『鈴木部長大いに語る。~来年度の見通し』みたいなインタビュー記事とかね。」
「経営陣との距離をもっと近くに感じてくれる記事もいいかもしれませんね。」
「人となりとか、個人的な趣味趣向がわかったりすれば、そこから共通点を見つけて、共感してくれるんだろうな。とはいえ、社内報も良いけど。君は上とも下ともつながりがあるんだから、君がハブとなって何が出来るかを考えて行動していかなくちゃならんだろうね。」
「はい、ありがとうございます。」
「それじゃあ、今日もよろしくな!」
またしても、奢らせられてしまった。
余計な出費が増えてしまったが、今日もおじさんと話せて良かった。
―今日も居酒屋の赤提灯は煌煌と夜に浮かんでいた。
参考文献
TRUST IN EMPLOYEE ENGAGEMENT: DATA REVEALS EMPLOYEE TRUST DIVIDE(Edelman)
パレートの法則(wikipedia)