ホワイトデー、それはバレンタインチョコのキャズム超えを祝う日

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iPhone、または、初詣恵方巻きのような、企業が作り出した、革新的な製品や新サービスは、今は定番と捉えられています。

しかし、これらが現在のように、広く市場に浸透するまでには、「キャズム」を飛び越えなければなりませんでした。

「日本のバレンタイン文化」を分析し、本記事では、ビジネス継続に、必要不可欠だと言われる「キャズム理論」をご紹介します。

イノベーター理論

「キャズム理論」の説明の前に、前提となった普及学の基礎、「イノベーター理論」をご紹介します。

米国社会学者エベレット・M・ロジャーズが提唱した、「イノベーター理論」は新サービス、新商品が市場に浸透するまでの経過を、購買層別に分けて表したものです。顧客に普及していく過程は、次の5つに区分されます。

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1. イノベーター(Innovators:革新者)
冒険心にあふれ、新しいものを進んで採用する人。市場全体の2.5%

2.アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用者)
流行に敏感で、情報収集を自ら行い、判断する人。他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれる。市場全体の13.5%

3.アーリーマジョリティ(Early Majority:前期追随者)
比較的慎重派な人。平均より早くに新しいものを取り入れる。ブリッジピープルとも呼ばれる。市場全体の34.0%

4.レイトマジョリティ(Late Majority:後期追随者)
比較的懐疑的な人。周囲の大多数が試している場面を見てから同じ選択をする。フォロワーズとも呼ばれる。市場全体の34.0%

5.ラガード(Laggards:遅滞者)
最も保守的な人。流行や世の中の動きに関心が薄い。イノベーションが伝統になるまで採用しない。伝統主義者とも訳される。市場全体の16.0%

引用元:イノベーター理論(JMR生活総合研究所)

キャズム理論

「キャズム」理論とは、半導体分野では、「ムーアの法則」で有名な「ジェフリー・ムーア」が提唱した、「イノベーター」理論を、さらに深化させた理論です。

キャズム(chasm)とは「隔たり、溝」を意味します。革新的商品やサービスが市場でシェアを拡大する過程で、容易に超えがたい「溝」が存在とするという理論です。

ムーア氏によれば、アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティでは、それぞれの要求が異なり、その間には「大きな溝=キャズム」が存在します。

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キャズムを超えてメインストリーム市場に移行するためには、自社製品の普及段階に応じて、マーケティングアプローチを変えていく必要があります。

では、アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティに間に存在する、「キャズム」即ち、両者の「要求の違い」とは何なのでしょうか?

ムーア氏曰く
アーリー・アダプターの目的は“変革”だが、アーリー・マジョリティの目的は“生産性”である

アーリー・アダプターは感度が高い層であり、求めるのは革新性のある先鋭的なものであったり、持っている人が少ない、希少性のある流行の最先端にあるようなプロダクトです。

一方で、アーリー・マジョリティは「皆が使っているなら、私も始めてみようかな?」という、流行りものに追随したい層がメインです。彼女らは市場に浸透しつつあり、信頼が持てる、持っていて間違いないもの、生産性の高いものを受け入れます。

義理チョコ、ホワイトデー、日本型バレンタインデーの定着化

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上記で説明したイノベーター理論とキャズム理論を踏まえて、バレンタインチョコがどのように「キャズム」を超えたのか、見ていきましょう。

1936年(昭和11年)、チョコレート会社「モロゾフ」は、「イノベーター」である在住外国人をターゲットに、英字新聞にバレンタインデー向けチョコレートの広告を出しています

昭和30年代後半になると、チョコレート業界は「アーリー・アダプター」である流行に敏感な若い女性をターゲットに、新聞広告などのマスコミを通じて積極的にバレンタインチョコを売り出します。

女性が男性に親愛の情を込めてチョコレートを贈ることがアーリー・アダプターに受け入れられると、チョコレート業界は、さらに日本独自のバレンタイン文化「ホワイトデー」と「義理チョコ」のキャンペーンを開始しました。これらの施策は、バレンタインがキャズムを超える上で大きな役割を果たします。

ホワイトデーと義理チョコの文化によって、バレンタインデーにチョコレートを贈る文化は、好きな人がいる女性だけではなく、職場やコミュニティに属する全ての女性がターゲットとなりました。

義理チョコという日本特有の概念は、「手頃かつ自然に日頃の感謝の気持ちを伝える」きっかけを作り出し、バレンタインチョコは単なる儀式から生産的な意味を持つように変わります。

さらに、ホワイトデーによって、「お返し=リターン」を期待できるようになったことから、生産性を重視するアーリー・マジョリティに、チョコレートを渡すメリットをアピールできました。

こうした一般大衆へのアピールにより、アーリー・マジョリティの重要購買基準である「流行ってる、皆がしている、定番といったイメージ」を根付かせることに成功し、バレンタインチョコはキャズムを超えるに至ったのです。

バレンタインチョコ普及の歴史は、異なる購買層それぞれのニーズを汲み取り、製品開発、販売戦略を実行する重要性を物語っています。

キャズム超えに失敗した「恐竜」

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(参照元:Sharp Zaurus SL-C3100 und SL-C3200)

30代後半以降のビジネスマンならば、シャープの電子手帳「ザウルス」をご存知の方も多いでしょう。

上写真の後期モデルのスペックは、タッチパネル方式で、無線LANカードで通信機能があり、メールはもちろんインターネットもWEBブラウジングもできます。初代モデルが発売された2005年当時、片手で収まるサイズでPC並みの性能がある通信製品は、かなり革新的なものでした。

実は、アップルは当時、シャープとタッチパネルの共同研究をしており、同じような機能の携帯情報端末「newton」を発売しています。

シャープの戦略として、このザウルスの携帯電話化を計画していましたが、大手通信会社との合意が得られず、実現には至りませんでした。

一方で、アップルはタッチパネル方式の音楽再生プレイヤーに情報端末機能と電話機能を付け足した製品「iPhone」を発表し、爆発的な成功をおさめました。

「ザウルス」は、同じような製品コンセプトの「iPhone」よりも5年も早く発売されましたが、アーリーマジョリティが求める電話機能を搭載できなかったことを一つの理由に、「キャズム」を飛び越える事が出来なかったのです。

徹底した顧客視点に立ったマーケティングプランを

キャズムは本来、革新的なIT関連の製品やサービスについて論じられる理論であり、どの製品・サービスにも存在するものではありません。しかし、バレンタインチョコは、バレンタイン文化のない極東の島国で、当時は高級品であったチョコが、国民的行事にまで普及したという点に、チョコレート業界のマーケティング戦略と革新性があったからではないかという筆者の考えから、キャズム理論の例としました。

どのような業界においても、キャズムを越え、製品やサービスが広く受け入れられる為には、徹底した顧客視点に立つプランが重要です。

マーケティングプランを策定する際には、プロダクトがどのように社会に浸透していくかを考慮しなければなりません。バレンタインチョコが、日本に広く普及した歴史を、マーケティング的な視点で見返すと、新サービスや新商品を末長く展開していくためには、「キャズム理論」の把握は必須である事が分かります。

参考文献

初詣参拝の起源(開運の宝庫)

恵方巻きの由来!セブンイレブンが発祥ってホント?(いい日本再発見)

日本のバレンタインデー(日本チョコレート・ココア協会)

日本のバレンタインデーの起源(バレンタインデー.net)

義理チョコ(wekipedia)

キャズム理論(コトバンク)

キャズム (ITメディアエンタープライズ)

ライフサイクル曲線 -プロダクトマーケティングの基本ー(オルタナティブ・ブログ )

iPhoneを開発したのは日本だったかも!?「Zaurus」という電子手帳をご存じか?(iPhone大学)