新卒は、俺の未経験の22年を生きた先輩 ー西荻編

赤提灯マネジメント

本記事は、赤提灯居酒屋で、企業戦士たちの談話を肴に、お酒を嗜むことを趣味とする筆者が、居酒屋で耳にした実話と、仕事上の体験談を、プライバシー保護を目的に編集、再構成したフィクションです。

 

【登場人物】

佐藤(29才):電子機器メーカー開発 新米係長 マネジメント経験ほぼなし 

鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長  100人以上の部下

 

ここは東京、新宿から電車で15分程度にある駅の近くの居酒屋。

赤提灯につられて、今夜もつい立ち寄ってしまった。

週末の夜、この居酒屋でよく会う

常連のおじさんと話すのが最近の楽しみだ。

 7_(3).jpeg「おじさん」なんていったら本当は失礼かもしれない。

お互いの仕事を聞かないまま、飲み友達になった後に

居酒屋の大将から聞いた話によると、大きな製薬会社の部長さんだという。


会社の飲み会では、言えない仕事の話を

おじさんに聞いてもらうのがストレス発散になっている。

最近、大きなプロジェクトをまかされて

張り切ってはいるのだけれども、どうも上手くいかない。


理由は分かっている。

任されて仕事をするのではなく、自らチームを率いて仕事をするようになったからだ。

同じプロジェクト内で、違うユニットの責任者になった同僚も同じ事で悩んでいるようだった。


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 「今日、会社で同僚が部下を怒鳴りつけてたんですよ。相手は新人エンジニア君だったんですけど、同僚は任せた仕事が納得いかなかったみたいなんです。新人君も、少し気が強いヤツだったんで、言い争いが始まって、空気最悪でしたよ。」

 「へえ、なんで。その同僚君は新人君の仕事に納得がいかなかったんだろうね?」

 

「同期は仕事のできるヤツではあるんですけど、デキるヤツにありがちな、指示下手だったと思うんですよ。自分たちチームの仕事のゴールを共有してなかったみたいです。新人君は自分に任されたタスクがプロジェクト全体のどの部分を担っているか分かってないようでした。」

 

「優秀なプレイヤーが優秀なコーチになるとは限らんからね。」

 

「どちらかというと新人君に同情しちゃいましたね。僕も決して、ずば抜けて優秀なエンジニアではありませんから。仕事のゴールが分からないまま、同僚の言った指示をそのまま受け取って、言われた通りにしたつもりが、全然認められないのは辛かったと思いますよ。」

 

「よくある話だね。その話で思い出したんだけど、僕は学生時代に家庭教師をしていて気付いた事があるんだ。」

 「だいぶ、話が飛びますね。」

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「まあ、聞いてくれよ。小学生の教え子でも、大学生だった僕よりも優れた所がたくさんあることに気づいたんだ。ゲームでも一輪車でもヨーヨーでも、なんでもいいんだが、僕は彼らの得意分野に敵わないんだ。

 

僕は小学生からも学ぶ部分が沢山あるって気づいた。教え子はその時11才だったんだけど、彼は僕よりも11年分、僕が経験していない、彼の人生を生きている。

 

翻って、社会人になって初めて新卒の部下を持つときに、その経験と気づきが凄く役に立った。新人さんも僕の経験してない分野では21年先輩なんだって思うようにしたんだよね。

そうすると、部下の強みとか優秀な所がドンドン見つかる。それを生かすのが上司の務めだよ。どんなに年下でも敬意をもって人と接するのは大事だ。部下の仕事が出来ないって言う上司は自分は無能ですって自己紹介してるようなもんだよ。」

 

「なるほど、面白い考え方ですね。」

「『やって見せて、言って聞かせて、やらせて見て、ほめてやらねば、人は動かず。』って言葉があるだろう?」


「山本五十六でしたっけ?」


「その言葉には続きがあってさ。『話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている姿を感謝で見守り、信頼せねば、人は実らず。』だよ」


「今日の話、同僚に酒の席にでも言いたいですね。僕が考えたって事にしていいですか?」


「俺、あん肝と銀鱈の焼きものが食いたいな。あと十四代も飲みたい。」

 

給料前で少し余計な出費が増えてしまったが、今日もおじさんと話せて良かった。

 

赤提灯居酒屋の夜は更けていく。



~続く~