プロジェクトではダメ出しも必要。NOの意思表明をすべきタイミング-渋谷のんべい横丁編

赤提灯マネジメント

最近始まった新しいプロジェクトに新人をアサインした。

初めて仕事を一緒にするメンバーも多数いる。
設計初期段階でブレストを行い、メンバーの意見を募った。

物怖じせずに発言してくれたのは良いのだけれど、
量産化した際の品質管理や強度、コストの面を
まるで考えていないような意見が多いように感じた。

ブレストの基本事項として
「相手の発言を否定しない」という事は勿論知っていたので、

その場でメンバーの案にダメ出しはしなかったが
プロジェクト成功のためには、いつかは反対しなくてはならないとも思う。

果たして、あれで良かったのか?どのタイミングで
部下に「NO」と言えば良いのだろうか?

【登場人物】
佐藤(29才):電子機器メーカー開発 新米係長 
鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長  

47-1.jpg「お、今日は、早いね」

「鈴木さんが、僕より遅いなんて珍しいですね。」

「今日は、営業会議が少し長引いたんだよ。」

「そうだったんですか。僕も今日は会議だったんですけど、なんかぐったりですよ。」

「どうしたの?疲れるくらいなら会議なんてやらなきゃいいんだよ。」

「そうもいかないんです。例の社長発案の新規プロジェクトでメンバーとブレストしてたんですけど、あまりにツッコミどころが多いアイデアばかりなのに、それが言うに言えなくてストレス溜まっちゃったんですよ。」

「ブレストは『否定』しちゃダメってのが原則だからね。たまにそれも分かってないヤツがいるけど。佐藤君は自分が意見と相反するようなアイデアに、ダメ出しできなくてストレス溜まっているわけかい?」

「そうなんですよ!鈴木さんもただでさえ会議って時間を取られてイライラしてるのに、素っ頓狂なアイデア出されたらイライラしませんか?」

「俺は会議の時は、ダメ出しとか否定するとか考えないから、そういったストレスはないね。」

「ええ?いつも、僕の考えにダメ出ししてくる鈴木さんが、会議で間違った意見出されて何も言わないですか?」

「俺は相手の意見を否定するのが、全面的に悪いって言ってんじゃないよ。時と場所を選ぶ必要があると考えてる。今世の中に広く流通している商品とサービスは、幾多の否定的な意見に摩耗、研磨されて洗練されていったんだと、俺は思う。」

「へえ。時と場所というのは具体的にはどういうことですか?」

「まず、君の今日行ったブレストやプロジェクトの初期段階では、否定的な意見をぶつけて、アイデアの芽を摘み取る場面じゃないね。」

「いやでも、明らかにおかしいアイデアだったら…」

「実現が難しそうで、一見馬鹿げているようなアイデアが、プロジェクトを変えてしまうかもしれないだろ。昔、織物を織る機械を開発していた会社の二代目が、これからは重工業の時代だって、周りの反対も押し切って車を開発したんだ。反対していた人からすれば荒唐無稽なアイデアだと思っただろうね。きっと。」

「…うーん。言われてみればそうかもしれませんね。」

「最初はさ。そのメンバーのアイデアが突拍子もないと思うような事があっても、まずはその意見に興味をもってみる。もしかしたら、他の良いアイデアを導いてくれるきっかけになってくれるかもしれないしな。たとえ理解しがたいアイデアだとしても、『なぜ、その考えが良いと思った?』と聞いて見るぐらいしても良いじゃないか。」

「そのアイデアのコンセプトや意向を掘り出して聞くことは、たしかに大事ですね。」

「アイデアを出してもらう段階で、上司が部下に言っちゃオシマイなヤツが、『お前の意見はダメだ!理由はダメだと思うからだ。』ていうセリフだな。」

「それを言われたら、部下は何言ってもダメだなって思っちゃいますね。」

「もし、そのアイデアを否定するなら、明確な理由を言えないとダメだよな。これは上手くいかなそうだなって思ったら、しかるべきデータを示して代案なり改善策を提案しなくちゃ、ダメ出しされた方も納得しないだろうよ。」

「人に反対して、人の揚げ足とってばっかりのヤツっていますよね。そういう奴に、じゃあ、どうすればいいかって聞いてもロクな答えが返ってこないんですよね。」

「うん、そうなんだよな。アイデア出しの段階で、あまり細かくツッコミを入れるのは、議論の場としては有益ではないよ。」

「それで、アイデアにダメ出しするのに適切な時期ってあるんですか?」

「俺は2回あると思ってる。1回目は、意思決定直前のタイミングだね。」

「意思決定直前っていうと事業化のタイミングとかですか?」

「それもあるね。今回のプロジェクトだと、出てきたアイデアで実行するか皆で決める時だ。この時は、君が思っているような懸念を徹底的にぶつけるべきだよ。」

「僕の意見は言うべきなんですね。」

「もちろん。君が思ったことは、経験から浮かんだ懸念だろ?だとすれば、動き出したとしてもいずれぶつかる壁なんだから、先に議論しておく方が良い。

それにだ。そうやってメンバーで喧々諤々に議論した結果であっても、プロジェクト責任者から更に厳しい指摘が入る。それを乗り越えてアイデアに骨と肉が作られていくんじゃないか?」

「確かに、今のまま進めたら空中分解しますね。きっと。」

「そうだね。ちなみに2回目のタイミングだが、君は開発者なんだからわかっていると思うぞ。」

「えっ?」

「君が開発していて、困るで済むレベルじゃない時はどんな時だい?」

「完成直前での変更ですね。もしそうなったら、定時なんか関係なくなりますからね。ほぼ徹夜。大迷惑ですよ。」

「それだよ。重要なマイルストーンのタイミングや、最終納期の近くでチームが一丸となるべき時は、新しいアイデアを出していい時ではないんだよ。」

「その時は、意見が出てきたらどう対応するんですか?」

「貴重な意見を言ってくれた事には感謝するが、今はその時じゃない。締め切りを間に合わせたあとで、そのアイデアを一緒に検討しよう、と俺なら伝えるかな。」

「鈴木さん。一緒に検討しようって言いながらどっか行っちゃいそうですけどね。」

「ははっ。出てきたアイデアによっちゃそうかもしれないな。そのアイデアを取り入れることでコストが大幅に減るだとか、よほど重大なアイデアでないかぎりは、納期ありきだよ。プロジェクトは。じゃないといつまでたっても終わらないからね。」

「やっぱりプロジェクトの初期段階では、相手の意見は尊重して否定しない方が良いんですね。」

「そうだな。俺も今日はこの店に来て初期段階だ。俺は危機的なまでに、ビールが飲みたくなってきたな。」

またしても、奢らさせられてしまった。
余計な出費が増えたが、おじさんと話せて良かった。

―今日も居酒屋の赤提灯は煌煌と夜に浮かんでいた。

~続く~

本記事は、赤提灯居酒屋で、企業戦士たちの談話を肴に、お酒を嗜むことを趣味とする筆者が、居酒屋で耳にした実話と、仕事上の体験談を、プライバシー保護を目的に編集、再構成したフィクションです。