手応えのない毎日では成果はなく、成果がなければやる気は出ない-レンガ坂編

赤提灯マネジメント

最近、ウチの会社は
業績改善のために外部からコンサルを入れた。

開発部門からの意見を聞きたい、とのことで
コンサルタントを交えた会議が、さっき終わったばかりだ。

社内の雰囲気を良くしよう。
新事業を生み出せるような人材が出てくるように、ポジティブな刺激を社員にあたえよう。
やる気を高め業績があがる社内環境を作ろう。
社員は家族だ。

まとめると、このような事が出ていた会議だったと思う。

正直、腑に落ちなかった。

そんなことを考えながら、いつものように
居酒屋の暖簾をくぐると、今日もいつも通り、鈴木さんがいた。

【登場人物】
佐藤(29才):電子機器メーカー開発 新米係長 
鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長  

44.jpeg「佐藤君のとこさあ、景気はどうなの?ボーナスはどうなんだよ。」

「いやあ、景気は良くはないですよ。社内でボーナス減っちゃうって噂が流れてます。だけど会社もこの状況をなんとかしたいと思ってるみたいで、外部のコンサル入れて色々とやってますね。」

「ああ。そういえば、前にもそんなこと言ってたね。あの後、どうなったの?」

「いやあ、あの社員のエンゲージメントを測定しようって話は、たち消えたんですけど。また、新しい若手のコンサル呼んだんですよ。」

「ふーん。君の会社はよくコンサル呼ぶね。で、今度のはどんな提案してきたの?」

「金銭的なインセンティブをかけずに、社員のやる気や意欲を上げて業績が上がる社内環境を作ろうって言ってました。僕は正直納得できなかったです。まぁ、うちの役員達は歓迎してたみたいですけどね。その提案。」

「そりゃあ、ずいぶん経営側に肩入れした話だね。金をかけずに業績が上がる社内環境を作るなんて、都合の良い話だよ。」

「そうなんですよ。経営陣にとって耳触りの良い話に終始してるもんですから、こっちは気分が良くないですよ。『社員のやる気と責任感が満たされていたら、彼らの金銭的欲求は昇華されます。社員が会社を第二の家族と思うようにしましょう』とかって言うんですよ。」

「マズローの欲求5段階説とか言ってこなかったかい?そのコンサル。」

「なんでしたっけ、それ?」

「ざっくり言うと、人間の欲求は5段階に分かれているって学説だよ。」

「あー。欲求がなんちゃらっていうのは言ってました。」

「やっぱり。あれはあんまりなあ。」

「どういうことです?」

「あの学説によると、人の欲求には段階があってだ。上位段階の欲求は周りに貢献できていることや自分のやりたいことができているってことらしい。それで、食べたいとか寝たい、健康に過ごしたいなんてのは下位段階の欲求。」

「今日配布された資料にも似たようなことが書いてありましたよ。働いて給料もらいたいとか早く帰りたいってのは下の方で、事業を作って会社に貢献したいとかリーダーになって周りから認められたいっていうのが上の方に書いてありました。」

「この学説には危うい点があってね。上位の欲求が満たされていれば、下位の欲求には気にならなくなるっていう勘違いを起こしやすいんだ。

要するに、リーダーになって会社や仲間に貢献できていたら、給料のことはあんまり気にならなくなるってことだ。」

「うわ。コンサルが言ってた事と似てますね。」

「こういう勘違いをしてしまうとね、人間性を高めるとか言って社員を薄給でコキ使うような人が出てきかねない。」

「確かに、受け取る人によってはそういう人が出てきてもおかしくないですね。一見立派ですし。」

「そう。だから一定の確率で支持するヤツも出てくるんだ。一見すると正しいように見えるっていうのが一番面倒だからな。」

「鈴木さんは、面倒なの嫌いですからね。」

「そういえば、そのコンサルはやる気を上げるのに何をやろうって言ってたんだい?」

「今日は初回の意見交換ということもあったので具体的な話はしてません。ただ、意見交換中に社員の誕生日や記念日に社長からビデオメッセージを送って祝おうとかって…」

「…そんなことして、誰が喜ぶんだ?俺には理解できないんだが。それなら祝いのシャンパンの一つでもくれよ。」

「いや、何もしないよりは良い事だとは思うんですけど…。」

「そもそも、社員のやる気が上がったら業績ってあがるのか?」

「それはそうじゃないですかね。やる気があったら、僕もバリバリ働きますし。」

「いや、順序が逆だろう?まず会社の事業がうまくいく。その結果社員の給料も上がる。社員に経済的な余裕が生まれるから職場の雰囲気も良くなってやる気も上がるんじゃないのか。やる気や意欲が先じゃない。

結果が出ていないのにやる気が出るなんてのはありえないよ。それに、マネジメント側からすると人のやる気をマネジメントするっていうのはとても難しいんだ。俺は無理だね。上がったり下がったりするし。」

「そうか、やる気をマネジメントしようとすると、『危機感がない!根性だせ!』とかいう精神論になりかねませんね。」

「現場の社員はさ、みんな明日のため、食うために仲間同士頑張ってるんだ。」

「それはありますね。僕にも生活ありますし。」

「やる気はね。誰でも最初はあるもんなんだ。大事なのは続くかってこと。それでそのやる気の源泉ってのはわかりやすい結果なんだよ。営業だったら売りが立つ、受注する、良い商談ができるってのもあるかもね。」

「開発だったら、製品がメディアに取り上げられるとか、口コミで広がる、賞を取るなんかですね。」

「そう。そういう結果が目に見えなくなってくるとやる気は無くなっていく。結果が出てるかどうかなんて、本人たちが一番わかってるしね。だから、俺たちみたいなマネジメント側は、小さくてもいいから彼らの成果が出るように、見えるように投資する。社員へのインセンティブなんかもそうだね。」

「確かに、仕事で手応えがあるのとないのとでは、翌日の仕事へのモチベーションが全く違いますね。」

「だからまあ、社内環境を整えること自体は社員にとっても良いことだから、そういうのを社内プロジェクトで進めつつ、勝つための事業づくりに投資しましょうとでも進言してみたらどうだ?」

「それは無理ですね。僕にも生活ありますし。」

「とりあえず、だ。少なくとも佐藤くんはボーナスが入るらしいんだから、俺の下位欲求を満たしてくれ!」

またしても、奢らさせられてしまった。
余計な出費が増えてしまったが、今日もおじさんと話せて良かった。

―今日も居酒屋の赤提灯は煌煌と夜に浮かんでいた。

~続く~

本記事は、赤提灯居酒屋で、企業戦士たちの談話を肴に、お酒を嗜むことを趣味とする筆者が、居酒屋で耳にした実話と、仕事上の体験談を、プライバシー保護を目的に編集、再構成したフィクションです。