勝率10%以下の勝負に挑む。新規プロジェクトで失敗しないためのコツー狸小路編

赤提灯マネジメント

社長発案の部門をまたいだ新ビジネス創出プロジェクトに参加する事になった。

しかし、このプロジェクト、やり方自体は間違ってないような気がするんだけど
どうも腑に落ちないというか、うまくいかないような気がする。

そんなことを考えながら歩いていたら、いつもの赤提灯の前に立っていた。
今夜も、この居酒屋の暖簾をくぐってみようか。

立て付けがイマイチの引き戸を開けると
鈴木さんの背中がカウンターに見えた。

【登場人物】
佐藤(29才):電子機器メーカー開発 新米係長 
鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長  

42.jpeg「ちょっと、いいですか?鈴木さん。」

「なんだい?金なら貸さないぞ。俺の週のお小遣いの額知ってるだろ?」

「いつも、おごってる人から、お金なんて借りませんよ!友達の会社の話なんですけど、相談があって…」

「また、友人の会社のふりして。どうせ自分の会社の愚痴だろ?」

「違いますよ!今回は愚痴じゃないです!」

「ほんとかよ。酒の肴になるような話じゃなさそうだけど。」

「最近、ウチ…じゃなくて友達の会社で、社長の発案で部門横断の新ビジネス創出プロジェクトが始まったんですよ。」

「ふーん、それで。」

「僕ら開発部門とマーケティング部門の社内混成チームで…」

「僕らって言ってるけどいいの?友達の会社の話じゃないのか?」

「あ、いや、友達の会社です。それではじめに、チームでブレストしたりマーケットのトレンド調査してたんですけど。」

「良いアイディアが浮かばないとか?」

「それもありました!良さそうな成功事例から、良いアイディアが浮かび上がりそうになるんですけど、結局、ウチの業界には応用が難しい事に気づいたりして。」

「なるほどねえ。」

「で、結局、市場規模と新規性を考慮した結果、マーケティング部の市場調査の結果から浮かび上がった潜在層にアプローチしようということで、ウチの業界的には、割と先鋭的なプロダクトを開発しようという事になりそうなんですけど…」

「なんか、失敗しそうだねえ。」

「やっぱり、そう思います?でも、なんて言ったらいいのか。アプローチ的には間違ってないような気がするんですが、うまく行かなそうな気もするんですよね。」

「ちょっと気になったんだけど、だいぶマーケティング主導の開発になってるよね?営業部門は参加してないの?」

「はい。営業とマーケティングの部門長同士が仲が悪くて。まとまるものもまとまらなくなるだろうって話で営業は不在なんですよ。」

「そりゃ、ダメだ。顧客に一番近い立場にいる営業の人間がプロジェクトにいないと話にならんと思うよ。開発とマーケじゃ数値的なデータに頼りすぎて、本質的な顧客のニーズに届く開発はできないと思うな。」

「そうなんです。先行投資だという声もあって、結構お金をかけてデータと市場分析はしたので、指標的には問題ないように見えるんですけど、なんかこうフワッとしてる感じが否めなくて。」

「データも大事だけどさ。いるのかいないのかわからない潜在層に頼るより、目の前に確実にいる既存顧客に頼ってもいいんじゃないか。それで顧客としっかり会話をするべきだと思うがね。

そして、会話から不満やクレームを含めた色々な意見を受け取って、ニーズの調査や既存製品の改善に取り組めばいい。そういった地道さが、革新的なサービスにつながるかもしれないし、投資回収も楽だ。しかも、ついでに他の仕事をもらえるかもしれないぞ。」

「じゃあやっぱり新規市場の開拓よりも既存製品の改善の方が良いんですかね?」

「いや。新規市場の開拓それ自体は重要だと思う。俺が言いたいのは、手探りに近い新規市場開拓プロジェクトに、多額の先行投資をするのは失敗のニオイしかしないってことだ。」

「でもやったことないことなのだからそれなりに先行投資は必要っていう考えもありますよね?」

「それなりっていうのが反対だな。だいたい新規事業なんてのは10個やって1個当たったら御の字みたいな世界だよ。そのぐらい難しい。だからこそ始める時は、軌道修正や撤退の判断がキチンとできるかが重要なんだ。

多額の先行投資をしていたら、失敗できないプレッシャーや見栄もあって引くに引けない勝負になりやすいだろ?ズルズルと判断を引き延ばした結果、損失がとんてもないことになって本業が傾いたなんて話もあるし。先行投資はできる限りかけない。これが基本だと思うよ。」

「確かに、うまくいくかもしれないってことはその逆もあるってことですね。」

「やる前から失敗することを考えるのは難しいけどな。俺は失敗するの嫌だからその辺考えるけどね。」

「鈴木さんの場合は、失敗した後の後始末が面倒くさいだけでしょ!
あ~あともう一つ。僕、開発方法が気になってるんですよね。経営陣は失敗したくないのか、開発に時間をかけすぎているような気がするんです。

余計な工程が多すぎて。とりあえず最低限実用に足る製品を早くユーザーに提供して、反応を見つつ改良と軌道修正のサイクルを早くしていけばいいのになあ。こういうのリーンスタートアップとかって言いますよね?」

「君も流行りが好きだね。でもいいじゃないか。それも失敗しないために重要なやり方だよ。君も色々と考えてるじゃない。自分の意見を言ってみていいんじゃないか?あ、友達の会社の話だっけ?」

「いや、ははは。今度のミーティングで上に進言してみます!」

「よし、景気付けに飲むか!じゃあ今日は君と君の友達の分てことで2杯だな!もちろん君のおごりで。」

またしても、奢らさせられてしまった。
余計な出費が増えたが、おじさんと話せて良かった。

―今日も居酒屋の赤提灯は煌煌と夜に浮かんでいた。

~続く~

本記事は、赤提灯居酒屋で、企業戦士たちの談話を肴に、お酒を嗜むことを趣味とする筆者が、居酒屋で耳にした実話と、仕事上の体験談を、プライバシー保護を目的に編集、再構成したフィクションです。