飲む時間を削るハードワークと長時間労働は愚痴しか生まない。仕事における労働時間と評価の因果―赤羽編

赤提灯マネジメント

担当している開発案件が佳境を迎え

終電に帰る日が増えてきた。

ガムシャラに働く自分を
ウチの会社は評価してくれている。

しかし、会社が評価している
僕の価値の大部分は「労働時間」であって
僕個人のエンジニアとしての「スキル」ではないのかもしれない。

「生産性」という言葉が流行っているが
僕の働き方は時代の潮流に逆行しているのではないか?

そんなことを考えながら歩いていたら、赤提灯につられて
今夜もつい、いつもの居酒屋に立ち寄ってしまった。

【登場人物】
佐藤(29才):電子機器メーカー開発 新米係長 
鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長  

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「…お疲れ様です。」

「佐藤君、こんな時間から来たのかい?それにしてもひどい顔だな、君。」

「最近、まともに寝れてないんですよ。これでも、今日は早く終わった方なんですよ。終電に間に合いましたからね。今回も納期ギリギリになりそうです。」

「納期が迫っているのか?なら、がむしゃらに働くのも仕方ないな。しかし、君はまだ若いから、そんな働き方ができるんだよ。まあ、俺は若かったとしても、そんな働き方はしてなかったがね。」

「あれ、鈴木さんの世代なら、若い時は寝る間も惜しんでモーレツに働いてたんじゃないんですか?ウチの部長なんか、若い時は会社で寝て仕事してた事を自慢してましたよ。」

「俺は、昔からそういう寝てない自慢する奴が大嫌いなんだよ。だいたい会社で寝てたら、飲みに行けないじゃないか?俺が自慢できるとしたら、営業部で会社にいる時間が一番短かったって事かな。

俺は仕事が飛び抜けて出来るわけじゃなかったが、仕事の要領が良かった。ある程度結果さえ出しときゃ、会社抜け出して、映画見に行ったり、飲みにいったり、女の子と遊んだり、今なんかよりもっと自由だったさ。」

「なんか、鈴木さんらしいですね。だけど、サボってるだけじゃないですか?」

「まあ、見ようによっちゃそうだな。ただ、これには俺なりの理由がある。当時勤めていた会社は、今でいう訪問販売ってやつの走りで、個人宅に突然訪問して商材を販売していたんだ。まあ今となっちゃ苦しいやり方だとは思うけどな。

そんな中、他の連中は、商品をわかりやすく説明するための資料作成やら、クロージングロープレなんかに時間を使ってた。でもな、あの営業で一番重要なのは、まずはお客の警戒心を解くことだろ?そのためには、お客のフィールドに俺たちが入っていく必要があるんだ。

商品があーだ、こーだと説明する前に、あの映画観ました?とかあの店のチャーハンが最高なんですっていうような間柄じゃなければ商品の説明なんか聞いてやくれないんだよ。だから俺は会社から外に出て遊ぶことでそういった情報を収集していったんだ。ついでにね。それで結果が出た。」

「たしかに、自分が買う気があるならともかく、そうでないのにいきなり商品の説明されても、面倒くさくて早く帰ってくれって気持ちになりますね。」

「そう。だから俺は、ちゃんと働いてちゃんと遊ぶ効率の良い働き方をしていたわけだよ。今は『生産性』とか言われて盛り上がってるけど、俺から言わせて貰えば、あんなの当たり前だよ。俺は、昔から楽したいから、やっても無駄な事を極力減らして本当に必要なことに時間を使って結果を残すという、効率性を重視して働いてきたからね。」

「それは僕も労働時間が短かけりゃ嬉しいですけど、ウチの会社は、まだまだ長時間働いた方が偉いみたいな文化があるんですよね。」

「俺は、長く働いてる君を馬鹿にしているわけじゃないよ。ただ、長く働いているから評価されるってのは違うと思うな。社員にとっても会社にとっても良くないんだよ。」

「自分で言うのもなんですけど、会社は長時間労働も厭わない、勤勉な社員がいたら助かるんじゃないでしょうか?」

「時と場合によるんだけどけどね。誤解しないで欲しいんだけど、長時間労働が完全に悪いってわけじゃないと思うんだ。プロジェクトのスタート段階から軌道にのるまで、または、君みたいに納期を守るためには、ある程度の長時間労働や休日出勤も必要かもしれない。」

「なるほど。」

「労働時間を評価の指標にした時、問題になりそうなのは3点。一つ目は勤怠管理の難しさだな。人はサボるって話だ。

知り合いの会社の社長の話でな。勤怠管理のデータ上では、社員が夜遅くまで働いている記録になっていて、社長も周囲にウチの社員は勤勉だと自慢してまわる位だったんだ。しかし、たまたまその社長が、飛行機の都合で海外出張がキャンセルになり、事務所に夜中に帰ったら、ひとっこひとりいなかったらしい。あとでタイムカードを調べたら、ほとんどの社員が残業している事になっていたんだ。」

「その社長にとっては、ホラーでしたね。しかも、今はネット上でオンラインタイムカードを取り入れている会社も多いから、意外とバレていないだけで、しているヤツ多いのかもしれませんね。いや、ウチの会社にはいないですよ!」

「もうひとつは、ダラダラ働く文化を作ってしまう恐れがある事。時間をかければ、その分金がもらえて評価も上がる。もしそうだったら必然的に社員はできるだけ時間をかけて仕事するようになってしまうかもしれない。」

「生産性とか効率とは真逆の話ですね。」

「3つ目は、競争力が育たなくなる。労働の成果を時間で評価するってことは、ただ漫然と『仕事しているだけ』の状態でも良いって事になるだろ?より早く仕事を早く終わらせる為に仕組みを考えようとか、革新的なチャレンジをしようとする土壌は生まれない。それが組織の強みになるのにな。時間は有限な資源であることを認識しなければ、競争原理は生まれないんだよ。」

「では、時間を指標としないなら、どうやって評価するんですか?成果だけで判断するんですか?」

「部署のミッションや軸を考えた上で決めるんだ。評価項目と測定する指標は各部門で変わってくるから、適切な設定をしなくちゃならない。指標は少なすぎてもダメだし、多すぎてもダメだ。

あとは、毎週とか、毎月とかに社員のアウトプットを測定して、間違った方向に行かないように小まめにフィードバックすること。」

「なるほど、評価する方も大変なんですね。勉強になりました。だけど、今日はもう疲れたので、この一杯飲んですぐに帰ります。」

「授業料は払っていけよ。」

またしても、奢らさせられてしまった。
余計な出費が増えてしまったが、今日もおじさんと話せて良かった。

―今日も居酒屋の赤提灯は煌煌と夜に浮かんでいた。

~続く~

本記事は、赤提灯居酒屋で、企業戦士たちの談話を肴に、お酒を嗜むことを趣味とする筆者が、居酒屋で耳にした実話と、仕事上の体験談を、プライバシー保護を目的に編集、再構成したフィクションです。