目の前にある当たり前を疑い奇策を打つ~弱小組織で成果を上げるための戦い方

組織マネジメント

勤続8~15年目のミドル層、中間管理やプレーヤーとして活躍する層が、会社で育たない。もしくは、辞めてしまう。

お金をかければ、それなりに良い人材が来てくれるのだろうけど、そもそもウチには予算に余裕がない。

人材不足・採用難の状況で成果を出すことが求められる。このような組織マネジメントにお悩みの方は、スポーツマネジメント映画の傑作「マネーボール」を見てみましょう。

38_(5).jpg《あらすじ》

選手からフロントに転身し、若くしてメジャーリーグ球団アスレチックスのゼネラルマネージャーとなったビリー・ビーンは、自分のチームの試合も観なければ、腹が立てば人やモノに当たり散らす短気で風変わりな男。ある時、ビリーは、イエール大学経済学部卒のピーターと出会い、彼が主張するデータ重視の運営論に、貧乏球団が勝つための突破口を見出し、周囲の反対を押し切って、後に“マネーボール理論""と呼ばれる戦略を実践していく。

当初は理論が活きずに周囲から馬鹿にされるが、ビリーの熱い信念と、挑戦することへの勇気が、誰も予想することの出来なかった奇跡を起こす! !

主人公ビリーは、オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャーに就任します。しかし、チームは弱く、資金難のために優秀で年俸の高い選手を獲得することもできず、当然ながらチームは低迷します。

さらに、主戦力だった人気選手が流出してしまいます。彼は、このような絶望的な状況の中で、野球をデータに基づいて分析する手法「セイバーメトリクス」と出会います。

熟練したコーチやスカウト達の「勘と経験則」といった、曖昧で主観的指標から離れ、科学的なデータという客観的指標を基にした分析から戦略を練るという、当時では斬新な手法に挑戦し、その結果事態が好転するストーリーから、我々が目指すべき組織作りと経営戦略をみることができます。

近道は経験者採用。その人が持つ強みにフォーカスせよ。

38_(1).jpgある日、トレード交渉のためにクリーブランド・インディアンズのオフィスを訪れたビーンは、イエール大学卒業のスタッフ、ピーター・ブランドに出会います。ブランドは野球経験はないが、データ分析が得意で、各種統計から選手を客観的に評価する「セイバーメトリクス」を用い、他のスカウトとは違う視点で選手を評価していました。

ブランドの理論に興味を抱いたビーンは、その理論をあまり公にできずに肩身の狭い思いをしていた彼を自身の補佐として引き抜き、他球団から評価されていない埋もれた戦力を発掘し低予算でチームを改革しようと試みます。

このシーンには、資金もない、人気もない組織が取りうるべき効率的な採用方法は何かという問いの答えがあります。

このような状況では、科学的根拠のある独自の採用基準を持ち、「一芸がある」と判断できる同業経験者を採用すべきです。

なぜなら業界経験者は、基礎的な一般教養やマナーを習得していることはもちろん、その業界の内情を既に知っている場合が高く、業界未経験者や社会人未経験者を教育するよりも、相対的に時間コストを圧縮できます。

また、自社独自の指標を持ち特に秀でた面を評価し採用する「一芸」採用は、自社に必要なスキルをクリティカルに埋めてくれるだけでなく、採用候補の選択肢を広げることに役立つからです。

ブランド力や資金力が乏しい中小企業が効率的な人材採用をしていくためには、自社にとって必要な人材のスキルが何かを業務の棚卸によって見極め、まずは業界経験者に対して募集をかけるべきです。

また、採用判断をする時は、全てのスコアの高さを一律で求めるのではなく、自社が必要としているスキルを満たせているのかという軸を設定し、場合によっては、「一芸にだけ秀でているようなタイプ」でも採用するという方針を視野に入れることが重要です。

”なぜ”を考え抜き、”どうして”を客観的に示せ

38_(4).jpg劇中で、重要な役割を果たす理論「セイバーメトリクス」とは、野球においてデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法のことをいいます。

「セイバー」とはアメリカ野球学会の略称「SABR」で、「メトリクス」は「測定基準(metrics)」のことです。「マネーボール」に出てきたセイバーメトリクスの例として次の3点が挙げられます。

・選手、チームの攻撃力を測る指標として、従来の打率・打点を用いず、「アウトにならない率」である出塁率を重視。
・速球派の投手をクローザーに仕立ててセーブを沢山稼がせ、セーブを必要以上に評価している他球団にトレードして有望な選手を獲得。
・チームの総得点および総失点からチームの勝利数(敗北数)を予測、予測値に従い選手の補強・解雇を行った。

ここから、成果を上げるための問題解決には何が重要なのかが分かってきます。問題解決には、当たり前の情報を誰よりも深く考え抜き、客観性のある方法を採用すべきでしょう。

と言うのは、起きた事象に対して、何故そのようになったのかという点を徹底的に考えなければ、物事の本質に迫ることはできないからです。本質を変えることができなければ、問題対処はできても問題の解決にはなりません。また、勘や経験を頼りにした主観的な方法では、周囲を納得させることが難しいからです。

よって企業が、業務や経営を改善していく際には、従来から考えられてきた経験則や熟練者の勘などに頼らずに、まずは、日々当たり前のように行っていることを、「なぜそれをやるのか」という視点に立ち、徹底的に掘り下げ、業務を形作る要素変数を明らかにします。そして、どの要素変数を変えることが最も効果的なのかを特定し、計測できるよう数値化した上で実行、検証すべきです。

新たな取り組みは”イバラの道”と覚悟せよ

38_(2).jpg低予算でいかに強いチームを作り上げるか、という彼らの理論は、同時に野球はデータではなく人間がやるものだという野球界の伝統を重んじる古株のスカウトマンだけでなく、選手やアート・ハウ監督らの反発を生み、チームの状況はますます悪化していくのでした。

周りの反発が一層強くなる中でも、強引に独自のマネジメントを進めていくビリー。長年アスレチックスのスカウトを務めたヘッドスカウトも、ビリーのやり方に反対したことで首にされてしまいます。

そんな中でシーズンが始まり、4月のチームの成績は最下位。ビリーが1塁手にとスカウトしたハッテバーグは、守備が下手だからという理由で監督が試合で使うことを拒否します。出塁率の良さから獲得したジアンビの弟も、スカウト陣が危惧した通り素行が悪く、チームの雰囲気も悪くなる一方でした。7月までに結果を出すとオーナーに宣言した手前、何とかチームを立て直さなければと思案するビリー。監督がハッテバーグの替わりに使い続けていた選手をトレードに出し、ジアンビの弟もチームから放出して逃げ道を絶ったのでした。

替わりの一塁手が一人もいなくなったチームで、ハウ監督は仕方なくハッテバーグを起用することになります。首を切るときに同情してしまうからという理由で選手と交流を持たなかったビリーですが、自らトレーニングルームに入って選手と話し、敵チームのデータを選手たちに伝えるようにしました。すると、チームの勝率はみるみる上がり、次々に連勝を重ねるまでになったのです。

この一連のシーンは、新たな取り組みを行う上で障壁を乗り越えるためには何が必要なのか、という事を表しています。どのような状況であれ、既存の組織体制やシステムを変える際は、どんなに確実で効果が高いアイディアであっても、必ず反発を招きます。

成果を上げるために、従来の方法を変えるのであれば、既得権益から恩恵を受けていた者や、変革により一時的に不利益をこうむる者からの猛反発が起きることを覚悟した上で、時にはその反発の中、自らが正しいと選択した方法を貫くことです。

ただし、思うような成果が出ず、自分に落ち度がある場合は、劇中のビリーのように、素直に考えを改め、方法を変える柔軟性を持つこと。そして、客観的に見て自分の行いは正しいのか、と冷静に俯瞰することが必要です。

まとめ

この映画は、日本ではあまり話題になりませんでしたが、公開当時アメリカでは非常に高い評価を受けており、多くの映画批評家から2011年の年間トップ10に選出されています。

またこの映画は、実際のメジャーリーグで起こった実話から作られた野球技術本が原作になっており、その本も非常に高い評価を受けています。

原題を直訳すると「マネーボール:不公平なゲームに勝利する技術」となっており、この「不公平なゲーム」とは2003年当時の、資金が潤沢なビッククラブしか強いチームを作れず、資金力がないチームは勝つことが出来なかった当時のメジャーリーグの状況を「不公平なゲーム」であると揶揄しています。

資金力が少ない、弱い組織が強くなるための施策を描いたこの映画を見ることで、我々は、経営上の戦略や戦術についてのインスピレーションを受け取ることが出来るでしょう。

参考文献

マネーボール (映画)Wikipedia

映画「マネーボール」