本物がわかる太っ腹の胃袋を最初につかまえろ 高級料亭の手法から学ぶ企業のR&D戦略―船堀編

赤提灯マネジメント

【登場人物】
佐藤(29才):電子機器メーカー開発 新米係長 
鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長  

ここは東京、新宿から電車で15分程度にある駅の近くの居酒屋。

赤提灯につられて、今夜もつい立ち寄ってしまった。
週末の夜、この居酒屋でよく会う常連の鈴木さんと話すのが楽しみだ。

居酒屋の大将から聞いた話によると、
それなりに名の通った会社の偉いおじさんらしい。

今日は常連さんから、この居酒屋の大将が元々高級料亭に在籍していた事を耳にした。

この居酒屋は、料理こそ美味しいが、安いし賑わいのある店だ。
落ち着いた雰囲気の高級料亭とは真逆の雰囲気があるので、その話は少し意外だった。

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「ここの大将って、元々有名な料亭にいたって知ってましたか?」

「俺は、前の店の時から常連なんだよ。一日に数組しか客をとらない、一見さんお断りの高級料亭だったな。」

「へえ、鈴木さんがそんな高級料亭に…。僕はそんな高級店に行ったことないんで、わからないんですけど、数組しか客を取らないって、そんなので商売が成り立つんですかね。」

「そりゃあ、客単価が居酒屋とは比べものにならんさ。3,000円払うアラカルトの客を20人さばくのも、30,000円の会席を2組に限定するのも、同じ60,000円の売り上げだ。しかも、ターゲットを少なくした方が、手の込んだ料理を出せるだろうし、客が限定されている分、接客にも集中できるだろう。」

「そうか、高い値段でも料理がおいしくて接客が良いと喜んで通うような、客層を狙うんですね。なんか僕らみたいな仕事でも、同じことが言えそうですね。」

「そうだなあ。俺らみたいな開発と投資してなんぼの商売でも言えることだろうね。高級料亭だって値段高いだけじゃダメだろうし、品質も高いものを提供しなきゃ顧客は納得してくれないだろうがね。そういう意味で大将が在籍していた高級料亭のビジネスモデルは、理にかなってるよ。」

「へえ、僕らの業界に当てはめて考えるとどうなりますか?」

「あえて高価格で質の高い新製品をニッチな市場で売り出す。」

「安い製品の方が、客に受け入れられやすいんじゃないんですか?」

「広く大衆に受け入れられるためなら、それは正しい。安い製品を提供して、大衆に受け入れられることはシェアを拡大する上で大切だけど、順番があるよ。まずは最初に、高価格の製品で得た利益を投資して、それから、低価格品を開発すればいい。」

「なるほど。高級品で高品質というイメージを根付かせてから、ダウングレードして売れば、市場に受け入れられやすそうですね。」

「そうだね。ついでに言うと、その製品の潜在顧客が100人いたとしてだ。実際に売り込むのは、一日数組限定の高級料亭に通うような、良いものなら高くても買ってくれる5人くらいだ。残りの95人にはあえて営業をかけない。買う準備が出来てない相手に売り込んでも仕方ないだろ?」

「もちろん、95人をほっておくわけじゃないですよね。今ならソーシャルネットワークとか、メルマガとか、ホワイトペーパー、直接交流するイベントを企画したりして関係を築いていくんですよね。」

「そこは、マーケティングの領域になるのかな。君が言うような事をして、見込み客に育てていくことだよな。ナーチャリングっていうやつだ。

あとは、少数の客に高品質・高いサービスを提供して得た収益を開発に投資して、新製品を作っていくことが大切だ。」

「R&Dは長期的な戦略が重要ですよね。」

「そういうわけで、まずは俺に高価格品を提供してくれ。」

またしても、奢らさせられてしまった。
余計な出費が増えてしまったが、今日もおじさんと話せて良かった。

―今日も居酒屋の赤提灯は煌煌と夜に浮かんでいた。

~続く~

本記事は、赤提灯居酒屋で、企業戦士たちの談話を肴に、お酒を嗜むことを趣味とする筆者が、居酒屋で耳にした実話と、仕事上の体験談を、プライバシー保護を目的に編集、再構成したフィクションです。