何でも数えりゃいいってもんじゃない。料理にも物事にも「塩梅」ってもんがある。 スコアリング評価の落とし穴 ―野毛小路編

赤提灯マネジメント

【登場人物】
佐藤(29才):電子機器メーカー開発 新米係長 
鈴木(50才):製薬会社 海外営業部 営業本部長  

ここは東京、新宿から電車で15分程度にある駅の近くの居酒屋。

赤提灯につられて、今夜もつい立ち寄ってしまった。
週末の夜、この居酒屋でよく会う常連の鈴木さんと話すのが楽しみだ。

居酒屋の大将から聞いた話によると、
それなりに名の通った会社の偉いおじさんらしい。

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週末ということもあり、今日も、この店は賑わっている。
鈴木さんは、顔に見覚えのある常連と肩を叩きあって喜んでいる。

どうやら、子供が生まれる常連さんに
お祝いにボトルを入れてあげるらしい。

この店がなかったら
決して知り合う事のなかった人たち。

こういう場面に巡り合うのは
なかなかないが、とても良い情景だった。

「この店に集まってくる、お客さんって、いい人多いですよね。
なんか、居心地がいいというか」

「大将の人柄のせいなのかな。店員も元気だし、その活気がお客さんにも伝わるんだろうね。それに、つられて良いお客さんが、集まってくるんだ。」

「僕の会社にも、こんな雰囲気があったら、仕事が上手くいくんでしょうね。」

「おめでたい席で、また会社の愚痴かい。飲んで愚痴ってばかりじゃ、活気とやる気に溢れた会社なんて到底できないだろ。君も祝い酒を飲めよ。」

「鈴木さんは、祝い事なくても、いつも飲んでるじゃないですか。それと、僕のは愚痴じゃないですよ!会社の雰囲気というか、職場環境を改善しようと今、頑張ってるんです。僕も一応は責任ある立場を任せられてはいるんで、色々と考えてるんですよ。最近、コンサルを入れて、改革を行なっているんです。」

「俺は愚痴って飲まない。うまい酒は俺、ひいては会社の活気とやる気の源だからね。それで、そのコンサルタントは具体的に何をしてくれるんだい?」

「今は、社内のつながりを強めようと考えています。社内エンゲージメント、社内の『愛着』とか『思い入れ』って言うんですかね?それを計測するための、ソフトウェアや指標の導入を勧められています。ドラッカーも言ってましたけど、『計測できないものは、管理できない』ですからね!」

「へえ、真面目に経営の勉強をしているみたいじゃないか。感心感心。俺もドラッカーの著書は結構読んだし、その名言にも多分に納得する部分はあるんだけど、こと『エンゲージメント』に関しては、いまいち共感できないんだよなあ。」

「どういうことですか?何事も数値化して指標化して評価管理しないと、PDCAもカイゼンもできないじゃないですか。」

「頭でっかちな考え方だよ、それ。社内エンゲージメントって、要するに「感情」とか「雰囲気」だろ?しかも、それは社員の個性や性質で変わってくると思うんだよな。

経験からに言わせてもらうと、エンゲージメントは定性的だよ。単純な数値だけで評価する事は難しい。

そのコンサルタントの言うとおりに、エンゲージメントをスコアリング評価してみたとする。

ある人が100点満点中で70点になったとして、その人のエンゲージメントは高いと言い切れるのかい?もしその人が、社内で会社に対して不満をもらしていると聞いていても数値が平均より高かったから、エンゲージメントが高いと言い切るのかい?」

「あ、確かに。そうかもしれませんね…」

「なんだろうね、スコアリング自体は悪くないんだけど、数値と指標でバチっと管理するだけでは足りないんじゃないかな。

エンゲージメントを定量化、数値化して指標にしようとする目的は、社員がどう感じているか理解して、会社の職場環境を改善したいからだろ?

それだと、数値だけで管理しようとしたら、表面的に取り繕うだけで終わっちゃうと思うよ。社員が根底に抱えている問題を解決する事はできないね。」

「そうかも知れませんね。じゃあ、どうすればいいんだろう…」

「別に責めてるわけじゃないから、落ち込まなくていいんだけどね。俺らみたいなマネジメントする側に本当に必要なのは、数値じゃなくて、洞察力なんだよ。

コミュニケーションを積極的にとっていけばいい。社内の雰囲気が悪くて、モチベーションが低下している理由は、指標やグラフや分析が足らないからじゃないだろ?お互いが何を考えているのかわからないからなんだ。

君の部下や後輩や同僚が、今働いていて、幸せか不幸か、会社の方向性をどう思うか、自分のマネジメントがうまくいっているか、知りたかったら、直接聞くのが一番だよ。」

「そういうミーティングの場を作った方が良いですかね?」

「ミーティングなんて堅苦しいものだけではわからないよ。こうやって肩を並べて飲むだけでも良いんじゃない?飲みにケーションが好きじゃない若い世代のヤツとは、昼飯でも食いに行けば良いし、喫茶店に連れていけばいい。

それで、彼らの話をじっくり聞くんだ。そして話してくれたら、感謝する。そうすると、相手も今後、話しやすくなるだろう?」

「そうですね、ありがとうございます!さっそく、来週にでも、疎遠になってた同期や部下を思い切って、飲みの席か昼飯に誘ってみます!」

「感謝しなくていいよ、あのお祝いに入れたボトルは、君のだから」

またしても、奢らさせられてしまった。
余計な出費が増えてしまったが、今日もおじさんと話せて良かった。

―今日も居酒屋の赤提灯は煌煌と夜に浮かんでいた。

~続く~

本記事は、赤提灯居酒屋で、企業戦士たちの談話を肴に、お酒を嗜むことを趣味とする筆者が、居酒屋で耳にした実話と、仕事上の体験談を、プライバシー保護を目的に編集、再構成したフィクションです。