社会の敵「リストラ宣告者」から学ぶ、社員の活かし方

組織マネジメント

いきなりですが、筆者はリストラされた経験があります。
経験者から言わせて頂くと、クビにされるのは、気分の良いことではありませんでした。
まさに、解雇通告は、社会人としての死を宣告されたようなものでした。

しかし、”僕のような稀に見る、優秀な人材を手放すという、社史上、類を見ない過去最大の損失と、血もでるような会社の苦渋の選択を考慮して” (冗談ですよ、念のためですが)、リーマンショックに軽く舌打ち程度で、当時は穏便に気持ちをおさめて、すぐさま転職しました。

しかし、アメリカには、気持ちが収まらなかったリストラ宣告者が、クビにした会社を訴える訴訟が数多く起こされています。その、訴訟を起こされるリスクヘッジのために、リストラ宣告を代行する高給取りの専門業者が実際に存在します。

死の宣告者、冷徹なコストカッターとも呼べるリストラ宣告人がなぜプロフェッショナルとして重用されるのか。本記事では、その答えを彼らの卓越したコミュニケーション能力に見出し、更に、管理職者や経営者に向けて“従業員を生かすためのマネジメント”について考えます。

《あらすじ》
年間322日も出張するライアン・ビンガムの仕事は企業のリストラ対象者に解雇を通告すること、つまりプロの""リストラ宣告人""。「バックパックに入らない人生の荷物は背負わない」をモットーとする彼は、夢の1000万マイル達成をすぐ目前にし、しがらみから自由な生き方を楽しんでいた。そんなライアンに二つの出会いが訪れる。一人目は彼と同じく出張族のアレックス。気軽な大人の関係とお互い割り切って情事が始まる。もうひとつの出会いは新入社員のナタリー。ネット上で解雇通告を行い、出張を廃止するという合理化案を会社に提出しており、ライアンの立場と1000万マイルの達成を危うくする存在だった。異なる年代の二人の女性との出会いをきっかけに、人を""切る""ことで生きてきた男が""つながり""の大切さに気づいていく・・・。

ライアンは解雇通告者です。それは、換言すれば、本人には到底受け入れられない解雇という難度の高い契約を、企業と従業員両者の害を最小限にする形で結び付けるプロという事でもあります。

解雇通告者である彼は、企業と個人の間での、高いコミュケーション能力を持っています。彼は、組織内のコミュニケーションのとり方や働き方を熟知して仕事をしているのです。

本映画を鑑賞することで、我々はコミュニケーションのプロとしての仕事を疑似体験し、彼らの成功や失敗から、組織で働く事について多くの学びを得ることができます。

コミュニケーションに過度な効率を求めるな

18_(3).jpg物語の序盤、リストラ宣告人の主人公の下で働くことになった新人ナタリーは、合理化のため、ネット通話での解雇告知を提案しています。

リストラ宣告人にとってのコミュニケーションの重要性を知る主人公は、ナタリーの提案に反発しますが、上司の命令で結局彼女の提案は通ることになります。

しかし、ある時ナタリーが担当した、テレビ通話での解雇告知後に、リストラ対象者が自殺してしまう事件が起こります。結果ナタリーは仕事を辞めてしまうのです。

組織や親密な関係性の中では繊細で緊密なコミュニケーションが必要です。
組織を良くする為には、カイゼンや合理化は大切ですが、人事評価のような繊細な案件では、直接面談形式を疎かにしてはいけません。

人間のコミュニケーションは、非言語メッセージに対する依存が高いという研究結果が出ています。

メラビアンの法則では人に影響を与える情報の割合は、言語情報が1割に対して、ボディランゲージ、受け答えの間合い、目線、受け答えの早さ、と言ったノンバーバルコミュニケーションが9割の意味合いを持つと言われています。

皆さんも経験があると思いますが、スカイプ、ハングアウトといったテレビ電話型通信技術では、繊細な情報のやり取りや認識は、非常に困難です。

関係性を構築するような大事な場面では、1対1で直接会って話す。F2Fコミュニケーションを確実に選択するべきです。

当事者意識を芽生えさせよ

18_(4).jpgこの「マイレージ、マイライフ」の原題は「Up in the Air」といいます。

宙に浮いて、漠然とした、という意味になり「leave the problem up in the air」は「問題をうやむやにする」といった表現になります。

仕事ではコミュニケーションのプロである主人公も、私生活の人生設計は宙ぶらりんです。
恋人とも真剣には向き合わず、「カジュアルな関係」を望み、結婚願望もありません。しかし、物語の最後に、そんな自分の人生がからっぽだという事に気づくことになります。

重荷を持つことは、言い換えれば、責任を持つこと、リスクを背負うことです。私生活では責任に向き合わず、空っぽな人生に虚無感を覚える主人公ですが、仕事ではリスクや責任を持って、行動し成功をおさめています。

共に働く個人と組織の成功を願う管理職者は、極力部下に“オーナーシップ”をもってもらうようなマネジメントに務めなくてはなりません。「この仕事は自分がやりとげなければならない、他に変わってやるものは誰もいない」という自負感を部下に持ってもらうことです。

個人の裁量権拡大、社員持ち株制度、ストック・オプション制度、インセンティブ報酬。
経営への参画意識を醸成するために出来ることは多数存在します。

たとえ名ばかりでも、役職を与えることで、責任を自負させることも出来るでしょう。

「ピンチはチャンス」を体現せよ

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リストラ宣告請負人である主人公は、聖書に出てくる「死の宣告をする天使」がモチーフになっています。しかし、実際に解雇通告する際には、「あなたは必要ないからクビ」とは言わずに、「明るい未来へのチャンス」だと諭します。

リストラ対象者から希望を奪わずに、納得してリストラを受け入れて貰う事を信条とする主人公は、解雇を死と捉えるのではなく、生まれ変わるチャンスなのだ、とリストラ対象者を諭すのです。

組織や個人が生き残るためには、どんな困難な状況に陥っても変化を受け入れ、自分の資源を認識し、市場における強みを基に戦略を構築し、目標と目的を達成するために行動することが求められます。市場は常に変化し続ける以上、組織は、それに適応していかなければ生き残れません。

ピンチになった時にこそ、部下は上司の姿勢を見ています。例えば、緊急性の高いクレームが客先から入った時、責任者として慌てずに真摯に対応する事によって、クレーマーがリピーター化する可能性(グッドマンの法則)を高めることができます。言うまでもなく、ピンチで活躍する上司の背中を見せると言うことは、部下の信頼を得られるチャンスでもあるのです。

孤独を排除し、創造性を高めよ

18_(1).jpgマリッジブルーに陥り、結婚式から逃げ出した妹の婚約者に対して、主人公が少ない言葉で花婿を諭す印象的なシーンがあります。

主人公「今まで一番幸せだった記憶はあるかい?」
妹の花婿「ある」
主人公「その時は独りだった?」
妹の花婿「いいえ、誰かと一緒だった」
主人公「そうだろうな。じゃあ昨日悩んだ時はどうだった?」
妹の花婿「独りだった。」
主人公「誰かにそばにいて欲しかった?」
妹の花婿「・・・・・・・そうか。」

そう言って、花婿は何か悟ったように結婚式に戻ります。

「人は人と関わることで初めて前を向いて歩ける。孤独でいると人は悲観的になり、余計な心配ばかりしてしまう。」

筆者はこのシーンを、このように解釈しました。

これは個人だけでなく、企業や組織にとっても同じです。組織の業績が伸びる、成長する時は、得てしてメンバーはまとまっているものです。一方で、従業員が組織の中で孤立し、バラバラの状態では、業績が良くなるはずがありません。

前向きでクリエイティブは発想を持って仕事をするためには、組織の団結が必要不可欠です。まずは、団結しなければなりません。

例えば、職場の座席の位置を変えるだけでも、チームとしての連帯感は変わってきます。座席の位置が遠いだけで、同じ部署でも気持ちは離れ、チーム内の結束力は下がってしまいます。シリコンバレーの企業では、座席を固定化せずに、プロジェクト編成が変わる毎に座席をかえることで、チームの結束力を高めている事例も存在します。

業務連絡が滞りなく行われている状態と、活発なコミュニケーションが取れている状態は、似て非なるものです。リーダーとして、コミュニケーションの種類にも注意を払いましょう。

人生に寄り添うものは何か

ビジネスの観点から見ても、学びが多い作品ですが、30歳を過ぎて、家庭や仕事について、行き詰った経験のある社会人なら、男女問わず考えさせられる作品なのではないでしょうか。

「リストラ宣告にポジティブな価値を見出す」だけの作品では決してありません。人生には、寄り添ってくれる何かが必要ですが、それは人によって、仕事だったり、家庭だったりするのだろうなあ、というラストシーン。主人公ライアンを演じたジョージ・クルーニーの好演が光ります。